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No.87 MARCH 1997
  • 機種:R6S形高速冷却遠心機用スイングロータ

1. はじめに

サイクルシーケンスなどにより多試料のDNA配列を効率的に決定するために、DNA試料の簡便な回収法としてエタノール沈殿法に注目し、1度に多試料を扱える96穴マイクロプレートなどが使用できる、R6S形高速冷却遠心機用スイングロータを開発した。
そこで、エタノール沈殿法におけるDNA回収の遠心条件と回収率について検討し、シーケンシング操作への本ロータの適用について検討した。


2. 実験および方法

DNAのエタノール沈殿法
遠心機はCR22E形高速冷却遠心機を用い、R6S形スイングロータに0.5mlマイクロチューブ用アダプタを使用し、シリコナイズされた0.5mlマイクロチューブを使用して行った。
エタノール沈殿の実験にはバクテリオファージλのDNA(日本ジーン製、48.5Kbp、以下λ−DNAと記す。)、もしくはこのλ−DNAを制限酵素HindV(日本ジーン製)で切断したもの(〜23Kbp、以下λ/HindVと記す。)をそれぞれ約5μg使用し、手順1に従い行った。実験は各5回ずつ行いその平均値を使用しグラフを作成した。回収したDNAの濃度は260nmでの吸光度測定の結果から(1)式より求めた。

DNA濃度(μg/μ1)=OD260×0.05・・・(1)

シーケンス操作は、373型DNAシーケンサ(ABI社)を用い、1,300V、40Wで16時間電気泳動し測定した。電気泳動用ゲルはLong Ranger Gel(6.75%)を使用した。




3. R6S形スイングロータの主な仕様

R6S形スイングロータ外観
(1) 最高回転速度:5,700rpm
(2) 最大遠心加速度:5,010×g
(3) 大きさ:直径398mm、高さ207mm
(4) 質量:10.6Kg


4. 結果および考察

(4-1) λ−DNA(48.5Kbp)のエタノール沈殿での回収率

λ−DNAを用いエタノール沈殿における遠心加速度の回収率に与える影響を調べた。
620×g(2,000rpm)、1,390×g(3,000rpm)、5,010×g(5,700rpm)、各10分の遠心での回収率を測定し図2に示した。
図に示すように、48.5Kbpと比較的大きなサイズのDNAであるλ−DNAの場合、最高回転速度2,000rpmの従来のマイクロプレート用ロータで得られる遠心加速度である620×gであっても、僅か10分の遠心で約80%と比較的高い回収率となることがわかった。



(4-2) λ/Hind III(〜23Kbp)のエタノール沈殿での回収率

各条件で回収したλ/Hind IIIの電気泳動結果
次に、サイズの小さなDNAを含むλ/Hind IIIを使用し、λ−DNAの場合と全く同様の検討を行い図3に示した。
λ/Hind IIIの場合は、5,010×g、10分の遠心でも回収率が約60%と低く、DNAのサイズの違いがエタノール沈殿に及ぼす影響の大きさが見られた。それぞれの条件で回収したλ/Hind IIIの電気泳動の結果を図4に示す。レーン1〜7までいずれも大差なく(レーン5は試料のローディングミスである。)、回収された2〜23KbpのDNAの組成に大きな違いは認められなかった。




(4-3) λ/HindVを用いた各遠心加速度における遠心時間と回収率の関係

各遠心加速度における遠心時間と回収率
次にλ/HindV(約5μg)を用い、各遠心加速度における遠心時間と回収率の関係を調べた。
620×gと5,010×gについては先の10分の他に20分、30分での実験結果を、また1,390×gについては先の10分の結果をそれぞれ図5に示した。遠心加速度を5,010×gとすれば20分以上の遠心でほぼ100%のλ/HindVのサイズのDNAを回収できることが示された。
620×gでは20分の遠心で約60%、30分では約70%の回収率にとどまり、遠心時間を長くしても回収率の上昇はある程度までしか期待できない、頭打ち(プラトー)となる傾向を示した。
これらの結果から遠心加速度は5,010×g程度、また遠心時間は20分以上必要であると予想される。

(4-4) シーケンス操作の結果

(1)遠心加速度とシーケンス結果の比較
(4-3)の結果から遠心時間が20分程度で回収率がプラトーとなる傾向を示したので、5,010×g、1,390×g、620×g、いずれも20分の遠心でエタノール沈殿にて回収した塩基数約3.9〜6.8Kbpの4種類のテンプレート(A:4,096bp、B:6,776bp、C:4,271bp、D:3,883bp)を用い、そのシーケンス結果を比較した。
シーケンス結果の例としてテンプレートAの場合について図6、図7、図8にそれぞれ「5,010×g、20分」、「1,390×g、20分」、「620×g、20分」のシーケンスのチャートを示した。
しかし、いずれの結果もとりわけ大きな違いは認められず、また他の試料についても同様であった。このことは本実験に用いたDNA量が比較的豊富にあり、回収率の違いがシーケンス結果に大きな違いをもたらさなかったものと思われる。読みとり精度は図6で99.5%、図7で99.2%、図8で99.0%であった。
しかし、ここでは簡便な比較方法としてシーケンスした際に解読できなかった塩基の数に注目してみた。その結果を図9に示した。全体的な傾向として遠心加速度が大きくなるほど解読できなかった塩基数が減少する傾向を示した。

(2)遠心時間とシーケンス結果の比較
次に5,010×gの遠心加速度で10分、20分、30分とそれぞれエタノール沈殿を行った場合の遠心時間のシーケンス結果に与える影響について調べた。
テンプレートとしては塩基数約3.6〜8.9Kbpの4種類(A:4,096bp、D:3,883bp、E:8,906bp、F:3,591bp)を用いた。この場合も上記の遠心加速度における比較と同様に、いずれの結果もとりわけ大きな違いは認められなかった。
このため、上記同様シーケンスした際に解読できなかった塩基の数に注目し、その結果を図10に示した。図から全体として遠心時間が長くなるほど

解読できなかった塩基数は減少する傾向を示した。このことから、遠心加速度が5,010×gであっても遠心時間は30分の方が確実であることを示しているものと考えられる。特にサイズの小さなDNAを対象とする場合には30分以上の遠心を行った方が望ましいと推定される。

(4-5) DNA含有量と回収率の関係

DNA量の影響
さらに試料中に含まれるDNA量と回収率の関係について調べた。λ/HindVを用い、約0.1μgおよび約0.5μgの時の回収率を先の約5μgの時の結果と比較した。
また、約0.1μgの時については共沈剤としてエタ沈メイト(和光純薬)を用いた実験も合わせて行った。遠心条件は、いずれも5,010×g、20分で行い、結果を図11に示した。
図から、5,010×g、20分であってもDNA量が約0.1μgの時の回収率は約20%、約0.5μgでも約30%程度の回収率しか示さなかった。しかし、共沈剤を使用することにより、約0.1μgであっても約70%程度まで回収率を増加できることが認められた。
このことから、含有するDNA量が少ない時、概ね1〜2μg以下の時には共沈剤の使用が効果的と考えられる。

5. 結論

以上の実験結果から、次のことが認められた。


  • (1)
  • 96穴マイクロタイター用プレートが使用できるR6S形スイングロータをDNAシーケンスのためのエタノール沈殿操作に使用することができる。
  • (2)
  • DNAシーケンス操作におけるエタノール沈殿には、概ね1,390×g(約3,000rpm)以上の遠心加速度が必要と考えられる。
  • (3)
  • より確実なシーケンス結果を得ようとすると、5,010×g(5,700rpm)、20分以上の遠心操作が必要と考えられる。
  • (4)
  • DNA量が少ない時、概ね2μg以下の時はグリコーゲン、エタ沈メイト(和光純薬)などの共沈剤を使用すべきと考えられる。
  • (5)
  • DNA量が5μg以上の時には共沈剤は必ずしも必要ないものと推定される。
  • (6)
  • ここでの実験は0.5ml用マイクロチューブを用いて行ったが、ポリプロピレン(PP)などのエタノールに耐性のある材質で作られたマイクロタイター用プレート、PCR用プレート、PCR用0.2mlマイクロチューブなどの使用も可能であると推定される。

6. おわりに

本実験は(株)日立製作所中央研究所メディカルシステム研究部の村川克二博士の御協力により行いました。また、本結果は平成8年8月に行われた日本生化学会・日本分子生物学会合同年会に報告したものをもとに作成しました。